イベント

大阪大学グローバル日本学教育研究拠点主催 /
「国際日本研究」コンソーシアム共催

国際シンポジウム

在日コリアン文学をグローバルな文脈で読みなおす
The Global Contexts of Zainichi Korean Literature

  • 日時  
    2023年7月29日(土)9:30~16:30
  • 会場  
    大阪大学箕面キャンパス外国学研究講義棟1階大阪外国語大学記念ホール(ハイブリッド開催)
        https://www.osaka-u.ac.jp/ja/access/top
  • 参加者数  
    111名(対面参加42名)
  • 使用言語  
    日英両語

本シンポジウムの基盤となっているのは、本拠点が採択・支援する「拠点形成プロジェクト」の一つ「在日コリアン文学の国際研究ネットワーク構築」です。本学のニコラス・ランブレクト助教とユタ大学のシンディ・テキスター助教授という国内外の研究者を代表者とするこの国際的プロジェクトの取り組みは、2021年度に採択され今年度が事業の最終年度となります。

開催報告

シンディ・テキスター(ユタ大学助教授)

2023年7月29日に開催された国際シンポジウム「在日コリアン文学をグローバルな文脈で読みなおす」は、大阪大学グローバル日本学教育研究拠点の支援によるプロジェクト「在日コリアン文学の国際研究ネットワーク構築」の集大成となりました。ニコラス・ランブレクト先生のご指導の下、本プロジェクトでは、在日コリアン文学関連のテーマを研究する世界中の研究者たちの共同研究と対話を大切に推し進めてきました。2023年7月15日に東国大学校(韓国)で開催された国際シンポジウム「インターセクショナリティと在日性」に私が参加することができたのも、このプロジェクトのおかげです。どちらのイベントも、在日コリアン文学、特に韓国語、日本語、英語の文脈で研究する研究者のグローバルなネットワークを構築するという本プロジェクトの目標を前進させるものでした。同時に、このネットワークに属する研究者たちの業績によって、国家を超えたインターセクショナルな方法で在日コリアン文学にアプローチすることの重要性が示されました。それはつまり、在日コリアンを単に日本の中のマイノリティとして捉えるのではなく、グローバルな枠組みの中で捉えるということです。大阪大学で行われたシンポジウムでの各登壇者は、このグローバルな枠組みに何らかの形で関心を持っていたと言えます。

特に、本シンポジウムの基調講演者のお二人は、この枠組みの変化が特定の意見や歴史をどのように照らし出したり、あるいは曖昧に隠してしまったりするのかという点を考えるための豊かな基盤を提供してくださいました。金煥基先生による刺激的な講演は、聴衆をある種の世界旅行に連れ出し、ディアスポラで急成長しているコリアン文学のアーカイブを探索するひとときとなりました。これらの作品には、在日コリアン文学だけでなく、中国の朝鮮族、ロシアと中央アジアの高麗人、ヨーロッパ、オーストラリア、南北アメリカの韓国系作家の作品も含まれます。これらのディアスポラ文学は韓国語だけでなくその地の言語によっても創作されており、移民、ナショナリズム、(ポスト)コロニアリズムなどの問題について探求するための有用な題材を提供しています。次に、ナヨン・エイミー・クォン先生は、冷戦と冷戦後のアメリカの覇権主義によって、歴史的記録から特定の資料が削除されたり、それらの資料が特定の研究者の手に渡されなかったりしたさまざまな状況を考察し、アーカイブへの非常に慎重なアプローチ法が提案されました。日本やその他のディアスポラの韓国人による物語のコーパスは、広大でありつつ必然的に不完全な性格を持ちます。どちらのご講演も、そのようなコーパスを正当に評価するためには、国境を越えた協力が急務であるということを具体的に示す内容でした。

午後のパネルセッションでは、基調講演者が示した幅広い展望から、特定のケーススタディが取り上げられました。まず、私自身の講演内容は、金史良とイラン生まれの小説家シリン・ネザマフィの作品における在日ムスリムの立場を通して、ポストコロニアル文学とグローバルな日本語話者による文学の違いを探るというものでした。私の論点は、日本語文学においてはグローバルとポストコロニアルはそう単純には区別できないというところにあります。続いて、細見和之先生は、ドイツ語詩人であるパウル・ツェランとの比較を通して、金時鐘の作品に新たな視点からアプローチしました。これらの両詩人の作品を並べて読むことによって、言語により歴史的なトラウマと和解しようとした金時鐘の苦心、そしてそのような言語により創作されたものを読んで解釈する者の責任を逡巡することが可能になりました。最後に、逆井聡人先生は、ミンジン・リーの『パチンコ』を取り上げ、特にアメリカと韓国での人気や影響力と比べた場合、なぜこの作品は日本語言論空間においては何の反応ももたらさなかったのかという疑問を解明するために、きわめて重要なコンテクストを付け加えました。逆井先生は『パチンコ』をアメリカにおけるアジア系アメリカ人文学と文化現象のより大きな潮流のなかに的確に位置づけ、しばしば表には出てこないアジア系マイノリティのより大きな表象を求める動きは日本語言論空間においては察知しがたいものであったことを明らかにしました。これらのパネルセッションの内容では、国家間、歴史的もしくは政治的な違いが裏表のない結論を導き出すことを阻害するなかでも—もしくはそのような状況であるからこそ—コンテクスト間の関連を引き出すことが重要であるという認識が共有されていたと思います。

パネルセッションに続いて行われたディスカッションでは、在日コリアン文学の研究には特殊性がかなり求められるという印象が残りました。これは、このシンポジウムと現在の在日コリアン文学・文化研究が目指す、在日コリアン文学をより広いコンテクストに位置付けるという試みに、いろいろな意味で抗うものです。日本語に対する韓国語の政治的ポジション、分断された祖国などの様々な要因により、在日コリアン文学をディアスポラのコリアン文学、日本語文学、またはその他のより大きな枠組みに位置付けることは困難なこととなっています。それでも、今回のシンポジウムから生まれたアイディアが指し示すように、これらの課題に取り組むことには十分な価値があります。私は、この使命に尽力する研究者の国際的なネットワークを積極的に構築し続けていきたいと思います。

原文は英語

田中敏宏拠点長による開会の挨拶
第1部 基調講演後の質疑応答の様子
第2部 パネルセッションの様子
加藤均副拠点長による閉会の挨拶
プログラム・タイムスケジュール
9:30~9:45 開会の挨拶(田中敏宏拠点長/大阪大学理事・副学長)
趣旨説明(宇野田尚哉副拠点長/大阪大学大学院人文学研究科教授)
9:45~12:30

第1部 基調講演(同時通訳あり)

司会:宇野田尚哉(大阪大学大学院人文学研究科教授)、ニコラス・ランブレクト(大阪大学大学院人文学研究科助教)

講演者 金煥基(東国大学校教授)
演題 越境/混種のコリアン・ディアスポラ文学

講演者 Nayoung Aimee KWON(デューク大学准教授)
演題 Transpacific Archives of Absence: Navigating Silenced Histories Across Japanese and American Empires

12:30~13:30 〈休憩〉
13:30~16:20

第2部 パネルセッション

司会:宇野田尚哉(大阪大学大学院人文学研究科教授)、ニコラス・ランブレクト(大阪大学大学院人文学研究科助教)

パネリスト
シンディ・テキスター(ユタ大学助教授)
「Muslim Migrants to Japan in Local and Global Perspective: From Kim Saryang's “Mushi” (1941) to Shirin Nezammafi's “Salam” (2007)」(グローバル/ローカルな視点から見た在日本イスラム教徒:金史良『蟲』からシリン・ネザマフィ『サラム』へ)

細見和之(京都大学大学院人間・環境学研究科教授)
「金時鐘さんの詩をどう読み解くか―作品「化石の夏」にそくして―」

逆井聡人(東京大学大学院総合文化研究科准教授)
「もう一層加える:ミンジン・リー『パチンコ』と「コリアン」という呼称について」

ディスカッサント
趙寛子(ソウル大学校日本研究所副教授)

16:20~16:30 閉会の挨拶(加藤均副拠点長/大阪大学日本語日本文化教育センター教授)