イベント

大阪大学グローバル日本学教育研究拠点・
国際日本文化研究センター主催 /
「国際日本研究」コンソーシアム共催

国際シンポジウム

「デジタル日本学」の可能性
Digital Humanities Approaches to Japanese Studies

  • 日時  
    2022年12月17日 (土) 第1部 10:00~12:00 / 第2部 13:00~16:10
  • 会場  
    大阪大学箕面キャンパス外国学研究講義棟1階大阪外国語大学記念ホール(ハイブリッド開催)
        https://www.osaka-u.ac.jp/ja/access/top
  • 参加者数  
    79名(対面参加24名)
  • 使用言語  
    日英両語

開催報告

田畑智司(大阪大学大学院人文学研究科教授)

令和4年12月17日、本拠点と国際日本文化研究センターとの主催、「国際日本研究」コンソーシアムとの共催で、国際シンポジウム「「デジタル日本学」の可能性」が開催されました。長引くパンデミック下、これまで多くの学術集会がオンライン開催を余儀なくされてきましたが、箕面キャンパス・記念ホールを会場に、久しぶりに対面(およびオンラインでのハイブリッド方式)での開催にこぎつけることができたことは実に喜ばしいことであります。当シンポジウムは、本拠点に新たに設置された「デジタル日本学部門」のキックオフ・イベントとしての意味もあり、第1部の基調講演、第2部のパネルセッションともに、人文・社会科学の分野でデジタル技術や方法論を駆使した先端的取り組みを追求している研究者を国内外から招き、「日本研究 × デジタル」という組み合わせにより、どのような化学反応が生じうるか、さまざまな研究例を通して、対話を深める目的で企画されたものです。

基調講演では、近代日本文学を対象にした初の本格的デジタルヒューマニティーズ研究のモノグラフThe Values in Numbers: Reading Japanese Literature in a Global Information Age (Columbia UP、 2021)の著者であるHoyt Long教授(シカゴ大学)が登壇し、デジタルによって可能となる「物語の科学:過去、現在、未来」を通して、人文学研究とはいかなる営みなのか、そして人文学は他の学術領域とどのような関係にあるのかを論じました。Long教授は「意識の流れ」という文体技法が英語圏文学から日本文学にどのように伝播し、トレンドを形成したかという事例や、アマチュア・オンライン作家がどのようにCovid-19という現代の危機に反応したか、さらには、DeepLやGoogleTranslateに代表される“neural machine translation”と世界文学を例に取り、文化の媒介器としての機械翻訳の未来に言及しました。それぞれの事例研究に、「物語の科学」の過去、現在、未来を投影することにより、全ての学問がデジタルによって変貌しつつある今こそ、人文学の目的と価値をあらためて問い直すことが求められていることを指摘し、講演を結びました。

パネルセッションでは、まず、「仕掛学」で知られる本学経済学研究科の松村真宏教授が、2000年代(一部の)ネットユーザー間で人気を博した情報交換サイト「2ちゃんねる」で交わされた膨大な量の書き込みの背後に潜む「ダイナミズムと問い」について論じました。次いで、深層学習を応用し、スマートフォーンで手書き古典籍の翻刻を支援するアプリケーション「みを (Miwo)」を開発した源氏物語研究者カラーヌワット・タリン博士 (Google Brain)からは、AI学習機能を実装したくずし字認識アプリケーションが如何に「眠っている」歴史資料や古典籍を目覚ませるか、その意義とインパクトが示されました。一方、矢野桂司教授(立命館大学文学部)には、GIS(地理情報システム)と新旧さまざまな画像資料、3次元VRモデルを組み合わせた「バーチャル京都」が映し出す時空を超えた京都の姿を示してもらいました。そして、同志社大学文化情報学部の阪田真己子氏からは、無形文化である伝統芸能の「実体化」された刹那な美をデジタルアーカイブ化する取り組みを通して感じた「何を残すべきか」という問題意識を共有いただきました。各講師から示された意見を受けて、本学データビリティフロンティア機構の長原一教授と国際日本文化研究センターの関野樹教授が指定討論者として論点を整理、敷衍し、他の参加者からの質疑・応答を促し、大いに議論が活性化したように思います。各セッションで示された知見と洞察に鑑み、当シンポジウムが複眼的な視点からデジタル時代の日本学について議論を深める契機になったとすれば、何より幸いなことであります。

拠点長による開会の挨拶
第1部 ホイト・ロング先生のご講演の様子
第2部 パネルセッション
タイモン・スクリーチ先生による閉会の挨拶
プログラム・タイムスケジュール
10:00~10:15

総合司会:岩井茂樹(大阪大学日本語日本文化教育センター教授)

開会の挨拶(三成賢次拠点長/大阪大学理事・副学長)
趣旨説明(宇野田尚哉副拠点長/大阪大学大学院人文学研究科教授)
10:15~12:00

第1部 基調講演(同時通訳あり)

司会:田畑智司(大阪大学大学院人文学研究科教授)、ニコラス・ランブレクト(大阪大学大学院人文学研究科助教)

講演者 ホイト・ロング(シカゴ大学教授)
演題 Towards a Science of Stories: Past, Present, Future(物語の科学へ:過去、現在、未来)

12:00~13:00 〈休憩〉
13:00~16:00

第2部 パネルセッション 日本研究×デジタルの拓く可能性

司会:田畑智司(大阪大学大学院人文学研究科教授)

パネリスト
松村真宏(大阪大学大学院経済学研究科教授)「メッセージの背後に潜むダイナミズムと問い」
カラーヌワット・タリン(Research Scientist、Google Brain)「AIくずし字認識研究の可能性」
矢野桂司(立命館大学文学部教授)「現在、過去、未来の京都の時空間を重ねる「バーチャル京都」」
阪田真己子(同志社大学文化情報学部教授)「伝統芸能のデジタルアーカイブ—その場限りの美を残すことの意味—」

ディスカッサント
長原一(大阪大学データビリティフロンティア機構教授)
関野樹(国際日本文化研究センター教授)

16:00~16:10 閉会の挨拶(タイモン・スクリーチ/国際日本文化研究センター国際研究推進部長)