拠点形成プロジェクト
東アジアへ拓かれた「戦後日本」の記憶の継承:
地域間を結ぶ対話と歴史実践の拠点構築
プロジェクト代表者
吉成 哲平
大阪大学大学院人間科学研究科・特任助教
アジア・太平洋戦争の終結から80年が経ち、戦争体験者の証言が聞き取れなくなる「ポスト体験時代」が到来しつつある現在、戦争体験や記憶の継承が喫緊の課題となっています。特に、継続する冷戦状況に今なお強固に規定されている東アジア情勢に鑑みれば、「戦後史」を東アジアの同時代性の中に位置づけ直しつつ、さらには第二次大戦後の様々な戦争の経験とも応答させながら現在への連続性を問うことで、紛争や対立を生み出さない「アジア地域史像」の構築が急務であることは間違いありません。
こうした社会的背景の元で、有志の教員により組織化された「大阪大学中国文化フォーラム」が2007年より実施してきた日本・中国大陸・台湾・韓国の国境を越えた学術交流の実績を受け継ぎ、研究代表者らは、2023年から「記憶の継承を祈念するグローバル・ダイアログ(記憶の継承ラボ)」を展開してきました。このラボでは、とりわけ次世代を担う学生たちの主体性に期待しつつ、長崎、沖縄、福島、水俣など各地での交流活動を通じて戦争・戦後体験の意味を受け止める学びの機会を提供しています。
これまで各地の現場から見えてきたのは、体験者と非体験者を繋ぐべく存在である「伴走者」たちに受け継がれてきた、「ポスト体験時代の記憶の継承の核心」としての生活者の思想的営為の重みです。その一方で、長年にわたり継承活動を開拓してきた実践者たちが、今後も活動を持続させていくために、さらに他地域における実践の経験との応答や連携を希求していることも分かりました。
そこで本プロジェクトでは、これらの基盤を更に発展させ、特に戦無派世代の若手研究者たちを軸に据えながら各地の実践者同士の対話を紡ぐことで、継承活動の結節点としての役割を果たしつつ、戦争や災禍の記憶の継承における地域間の連帯を共に実現していくことを試みていきます。そして、それぞれの地域史から浮かび上がる東アジアの「戦後」とその連累を私たちが受け止め直していくという「歴史実践(doing history)」へと拓いていくことを目指します。
具体的には、現場の実践者同士が触発し合う交流空間が欠如している現状を打破するために、現地での交流や公開シンポジウムの開催等、実践者や研究者のみならず市民も積極的に参加することを促す装置を立案することで、「ポスト体験時代」における記憶の継承の更なる活性化へ繋げていきます。すなわち、「戦後日本」の各地域が抱えてきた東アジアを巡る歴史記憶を共に問い直していく領域横断的研究へと昇華させつつ、次世代への大学教育における社学連携的・学際的な研究教育プログラムの創成を追求していきます。


| プロジェクト構成員 | ||
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| 学内 | 三好 恵真子 | 大阪大学大学院人間科学研究科・教授 |
| 許 衛東 | 大阪大学大学院経済学研究科・准教授 | |
| 高橋 慶吉 | 大阪大学大学院法学研究科・教授 | |
| 豊田 岐聡 | 大阪大学大学院理学研究科・教授 | |
| 宮原 暁 | 大阪大学大学院人文学研究科・教授 | |
| 学外 | 丸田 孝志 | 広島大学大学院人間社会科学研究科・教授 |
| 馬 建 | 新潟食料農業大学食料産業学部・助教 | |
| 張 曼青 | 京都大学フィールド科学教育研究センター・特定助教 | |
| 岡野 翔太 | 神戸大学大学院人文学研究科・助教 | |
| 鄒 燦 | 中国南開大学日本研究院・副教授 | |
| 江 沛 | 中国南開大学歴史学院・教授 | |
| 許 育銘 | 台湾国立東華大学歴史学系・副教授 | |
| 柳 鏞泰 | 韓国ソウル大学校歴史教育科・教授 | |
| 周 太平 | 中国内モンゴル大学モンゴル学学院・教授 | |
| 福田 州平 | 香港大学専業進修学院・学院助理講師 | |
| 許 俊卿 | 中国清華大学新聞伝播学院・研究員 | |
| 山口 政則 | 城山小学校被爆校舎平和発信協議会・会長 | |
| 松尾 眞一郎 | “天空のRAKUGAKI” drawing作家/ 城山小学校被爆校舎平和発信協議会・会員 |
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| 恩河 尚 | 沖縄市戦後文化資料展示館「ヒストリート」・ 沖縄市史編集担当 |
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| 伊敷 勝美 | 沖縄市戦後文化資料展示館「ヒストリート」・ 沖縄市史編集担当 |
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| キーワード | 戦後史、東アジア冷戦体制、ポスト体験時代、記憶の継承、歴史実践 |
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